浦和競馬場で『一番モテない種馬の子供』の馬券ばかり買ってみた
|この世でいちばん男たち憧れの仕事は「種馬」かもしれない。競馬の世界で「優秀なDNAを後世に残す」為に、メス馬と種付けするのが仕事という、ある種サイコーに幸せな男の仕事。
しかし種馬の世界でも、モテる種馬と、モテない種馬の差は歴然。片や、何千頭に種付けできるモテ男、片や、数十頭にしか種付けできないモテない男。
モテない男としては、「モテない男から生まれた数少ない子供たち」を熱烈応援したい!
というわけで、『そのレースで一番モテない種馬の子供の馬券だけを買う応援チャレンジ』を行うため、2017年3月27日、浦和競馬場へやってきた。
【初陣の第7レース、名馬の血を引くモテないパパの子に賭ける】
第7レースから馬券を購入。競馬新聞を広げたら、居た居た、モテないお父さんを父に持つ馬。サイレントディールパパに持つ、クラサイレントくん5歳だ。対して、モテモテのお父さん、マンハッタンカフェパパを父に持つのが、ケイティーオオタカちゃん4歳。
画像出典:evangelionさん 画像出典:マロンペアさん
(注:競馬の場合、種付け頭数と産駒数(子供の数)はかなり近いので、企画の便宜上、産駒数を種付け頭数とします…)
サイレントディールパパは日本の歴史を変えた名馬サンデーサイレンスの息子だが、佐賀記念など、G3を三勝するにとどまり、種付け頭数もたったの83頭。対して、菊花賞・有馬記念、天皇賞春とG1を三勝し種牡馬になったマンハッタンカフェパパは、1530頭もの種付け頭数を誇る。
思い切り格差を感じざるを得ないこの2頭、しかし競争の条件だけは平等だ。僕はモテない父を持つクラサイレントくんの馬券を買い、発走時刻を迎えた。
そして…いざ発走!
クラサイレントくんはちょっと見せ場は作ったが、5着。馬券的中ならず。種付け頭数たった83頭のお父さん、サイレントディールパパの雪辱はならず。しかし、種付け頭数1530頭のモテモテパパを持つ、ケイティーオオタカちゃんは10着に沈んだ。ちょっとだけ胸のすく思い。
【第8レース、”地方のモテない歴史的名馬”の息子に賭ける】
続いて第8レース「C2(六)(七)」1500mで勝負だ。ここで一際モテないパパ・アジュディミツオーをパパに持つのが、ベッロポモドーロちゃん4歳。逆にモテモテのキングヘイローがパパなのが、キープサニーハートちゃん4歳だ。
高松宮記念などに優勝したキングヘイローパパは、1231頭もの種付け頭数を誇る。逆にアジュディミツオーパパは、地方の大レース、帝王賞や東京大賞典などを優勝した、地方競馬が誇る歴史的名馬でありながら、58頭という寂しい種付け頭数…中央と地方の格差を猛烈に感じる種付け頭数の差。
『種付け頭数20倍以上』のモテ格差を持つ、2頭のレースがはじまる。
地方の元スーパースターであり、今では『モテない種馬』に成り下がったアジュディミツオーパパの子供・ベッロポモドーロちゃん、あえなく8着に沈む。逆に、モテモテパパの子、キープサニーハートちゃんは4着。これがDNAのモテとモテないの差なのか…
【食堂のボリュームあるカツ丼(800円)で気力回復!】
馬券が当たらないので、心機一転。スタンド3階の食堂にて、勝丼800円を食べることにした。800円か、高いなぁ、わかりやすいスタジアムプレミア価格か…と思っていたら、これがやってきた。
かなり量が多いぞ!備え付けの大型テレビと競馬新聞を観ながら、昼間からビールを煽っているおじさんの横で頂くと、味も格別。
安いカツ丼は、ごはんの量を多くして、ペラッペラのカツで上げ底をはかるのが常だが、このカツ丼はカツがそこそこ分厚く、ごはんは標準の量のため、ちゃんとカツが堪能できるカツ丼に仕上がっている。美味い!これは800円も納得!
実にウマい競馬場グルメを堪能し、予想にも力が入る。
【第9レース、”モテない皐月賞馬”の残した子に賭ける】
第9レースは「幸手権現堂桜堤賞 C1(九)」1400m。このレースを走る、可哀想な(?)モテない父・キャプテントゥーレパパを持つ馬は、ショウケンガールちゃん4歳だ。逆にモテモテ父・サウスヴィグラスパパの子が、クロスオーバーちゃん6歳。
種付け頭数143頭のキャプテントゥーレパパは、実は栄光の皐月賞馬。しかしスピード能力が低いと烙印を押され、たったの二世代のみで種馬引退の憂き目にあった、可哀想なお父さんだ。それに引き換え、種付け頭数1191頭を誇るサウスヴィグラスパパは地方中央交流G1の中でも最高峰のレースの一つ、JBCスプリントを勝った名馬にして、勝ち上がれる子供を出せると人気のモテモテ父さんだ。
そんな予想屋たちの姿をチラ見しつつ、第9レース、発走。
あろうことか、モテモテパパの子・クロスオーバーちゃんを前に、約3秒差をつけられ大敗。ショウケン(証券)ガール、勝利という契約成立はならず。
【第10レース、モテない”箱入り種馬”の子供に賭ける】
続く準メイン、第10レースは「桜月(さくらづき)特別 C1(四)」1400m。
このレースの6枠6番、イエスアイゲットちゃん4歳はトーセンファントムパパというモテないお父さんを持つ。種付け頭数は61頭のみ。
トーセンファントムパパは、競馬界では有名な「トーセン」の冠名で知られる、島川隆哉氏による所有馬で、重賞未勝利と、正直戦績では種牡馬にはなれないレベルの馬だったが、島川氏の温情含みで種馬になり、殆ど自分が所有する牝馬に種付けをしている、いわば箱入り息子のような種馬。
片や、同レースに出る、リンクスクリスタルちゃん4歳とミラクルバイオくん4歳が父に持つのが、ダート(砂)界のモテモテ男、ゴールドアリュールパパ。種付け頭数はゆうに1343頭だ。
名馬サンデーサイレンスを父に持ち、日本ダービー5着と芝でも実績を残しながら、日本のダート界の頂上決戦であるフェブラリーSを勝った名馬だ。子供もすでにG1を5勝もしている。
はっきり言ってミスマッチとも言える闘いではあるが、勝負はDNAだけでは無く、頑張り次第であることをどうにか証明してくれ、イエスアイゲットちゃん。
そして発走。
2、3番手で進むも、直線で置いていかれる。モテモテパパの馬、ミラクルバイオくんに先着を許すという悔しい展開(もう一頭のリンクスクリスタルは10着)。
【メインレース、今日一番モテないパパの子供に賭ける】
とうとうメインレースである、11レース「春光(しゅんこう)特別 B3(三)」1600m。ここまで、モテないお父さんの子どもは、複勝圏内の3着にすら来ていない。そろそろ誰か来てくれないと、企画的にもツラい…と、若干の戦慄を覚える。
ここで願いを託す、最もモテないお父さんを父に持つ馬が、1枠1番アドミラルティくん4歳。彼のお父さんクーリンガーパパの種付け頭数は、今日の最低頭数、たったの31頭!(しかももう種馬引退→乗馬になってる)しかし、7枠7番グランアルバスくんのモテモテお父さん、シンボリクリスエスパパは、実に種付け頭数1487頭!
実に48倍という種付け頭数の違いに、『世に平等などありえない』という事実を痛感。しかし、僕の買う馬券は決まっている。モテないお父さんの恨みつらみを乗せて走るアドミラルティくん、頼んだぞ!
いよいよ運命の発走だ!
やったやった!とうとう当たった!しかもぶっちぎりの1着!!
圧倒的にモテないDNAを植え付けられた馬が、圧倒的にモテるDNAを持った馬に勝った…!しかも、大圧倒して。
強い親から生まれた子どもは強い、25年間競馬を見てきた僕から見ても、それは自明だ。しかし、100%そうでは無い。それを覆す喜ばしいシーンを大いに目の当たりにさせてもらった。
実に清々しい気持ちで、それでは最後に、メインレースの馬券と一緒に記念撮影でもしようと思ったら・・・馬券を落とした。
馬券をなくし、失意で浦和競馬場を後にする。それでも、馬券を写真に撮っていたのが不幸中の幸いだった。最後の最後に『モテないDNAを持った男のクソ力』がみられて、サイコーに嬉しかった。